ボクセルアート上達コレクションはメイキング本を超えるか

[書籍紹介]
「MagicaVoxelでつくる3Dドットモデリング ボクセルアート上達コレクション」
編集:日貿出版社
メイキング掲載作家(敬称略):ウラベロシナンテ,Peccolona,権田支配人, .goka,ハードン,uevoxel
出版社:日貿出版社,2020年
ISBN:978-4-8170-2144-1
価格:2,200円+税
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2020年4月にボクセルアートを取り扱った書籍「ボクセルアート上達コレクション」が刊行されました。
ボクセルアート界隈で人気の高い6人の作家によるアンソロジー形式のメイキング本です
掲載作家の作風を再現する点とソフトの使い方を覚える点を両立を目指した構成となっています

ボクセル作成フリーソフトmagicavoxelは記事執筆時点(2020年8月)では日本語ローカライズ未対応であると同時にインターネット上で公開されているノウハウ記事などの参考文献も少なく、使い方を覚えるようになるまでのハードルが高いのが難点でもあります
この書籍はボクセルアートを制作したい人の助けとなりうるかといった点を中心にレビューを進めていきたいと思います

書籍内で使用されているパージョン:magicavoxel 0.99.4.2

書籍の構成

初級編:作例を通してソフトの使い方を覚える

初級編では作例モデルを通してソフトの使い方を覚えていきます
magicavoxelの基本操作であるボクセルの追加、削除から説明されています
初っ端から置いてきぼりになる心配はいりません

作例の形状も直方体ベースの簡単な形状です
造形に自信がない人でも始められる丁寧なつくりになっています
作例通りに作る、初級編を読んだうえで作例に近い課題を作るなどをすれば小規模な制作ができるようになります

magicavoxelは機能の使用によって大幅に効率的に制作できるソフトです
自分の知識に抜けがないか確認する意味でも初級編にも目を通しておきましょう

中上級編:メイキング過程を制作のヒントにする

中級編、上級編では各作家のメイキングに重点が置かれています
初級編で紹介した機能についておおむね理解できていることを前提に進むので、初級編を見直しながら読みましょう
初級編で解説されていなかった機能やテクニックについてはその都度補足説明がなされています

中級編では自然、上級編では建造物を作っています
キャラクターや生き物のメイキングは初級編PART2のみですのでその点に注意して下さい
具体的な作例画像は書籍の裏表紙、商品サンプルページにあります

初級編ではmagicavoxelの使い方を覚えるという意味でも簡単な作例でした
しかし中上級編では執筆作家が普段制作している作品とほぼ同じもののメイキング過程を載せているため、いきなり難易度が上がったと感じる人もいるかもしれません
その場合は自分で簡単な課題を制作して慣れた後、改めて読み返すことをおすすめします
何度も読むことでより理解が深まるはずです

個人的総評

ボクセル造形能力が伸び悩んでいる人にはおすすめ

ボクセルの詳細なメイキング過程が見られます
特に色ごとのマテリアル指定やレンダリングの光源設定も公開されている点は有難いです
独学ですとどうしても設定を使いまわしてワンパターンになりがちです
変な癖が付きやすい部分でもありますので実際の数値を見て試せるのは良い点です

中級編PART2と上級編PART1では使用している色のRGBパラメータも詳しく掲載されています
上級PART2ではドット絵のテクニックを使用したボクセル制作の様子も見ることが出来ます
他の方の制作過程が見られるだけでも初心者にとっては意義の多い本となるでしょう

ブロック造形は出来るけどが色やマテリアル調整が上手くできない人にはおすすめです
またMinecraftやドラゴンクエストビルダーズなどのブロックメイクゲームから、3DCGのボクセル制作へ挑戦してみたいかたにもおすすめします

この本だけで上級作例程度の作品が作れるまで成長可能か疑問

ボクセルアート上達コレクションを入手してパラパラとめくったときの第一印象が
「普段からボクセルを作っている私には分かるが初心者も分かるんだろうか」
という疑問でした

この点についてはボクセル初心者のSNS上の投稿やレビューを見てみないと確証を得られません

初心者がこの本だけで急激な成長を遂げるのが難しいと感じた理由は3つあります
まず1つ目は、後述しますが制作に使う機能解説の分散が目立つことです
2つ目はmagicavoxelそのものが実際にいじって覚えるタイプのソフトだという点です
最後の3つ目は向上心のある人は最終的に配布元サイトephtracy氏のTwitterを参考にするからです

上手くなるためのハードルが大幅に下がったかどうかは販売して間もない現在では判断できません

評価できる点

独学では理解しにくいレンダリングの解説が豊富

作業効率を無視すれば、Box Modeのみでもハイクオリティな作品を作ることも可能です
その上で描画ツールの使い方はいろいろ触っていくうちに分かっていきます
色々なものを作っていくうちに作品のクオリティ、効率ともに上がるでしょう

資料や参考となる作品を探すことも容易で、ボクセル造形については独学でできる部分も多いです

その一方でmagicavoxelのマテリアル設定やレンダリングオプションについては独学では理解しにくい要素です
造形においては完成品だけでも知りえる情報はたくさんあります
しかしながらマテリアル設定やレンダリングについては完成品から推察することが難しいです
ライムラプス動画の視聴でもどの描画ツールを使用しているかは分かりやすいのですが、レンダリングの際の光の角度や使用しているオプション類、カメラ設定などについては分かりにくい部分があります

ボクセルメイキングを書籍化するにあたって、マテリアルを活かす設定も明文化されています
ライティングやカメラ設定まで具体的な数値やスクリーンショットが示されています
数値を真似るだけでも新しく学ぶことがあると思います

ボクセルアートを広く知るには適している

キュレーションメディアとしても一役買っている本です
ボクセルは様々な方の制作周知活動によりピクセルアート界隈での認知度は高くなりました
しかし一歩外に出るとボクセルの認知度は途端に下がってしまうのが現状です
Minecraftみたいなやつにボクセルという名称がつけられていること自体知っている人は多くはないでしょう

言葉だけでは理解しにくいボクセルの世界が垣間見える本でもあります
色々なモチーフや作風があることを知ることができるでしょう

低評価となりうる要素

実際の制作で使用する機能解説の分散が目立つ

この本が手放しに評価できない理由の大部分がこれにあたります

同難易度の内容であるにも関わらず別のPARTで解説されていることがままあります
何もしない状態でmagicavoxelの操作を思い出すために見返すという使い方は難しいでしょう

最初は見落としかと思いましたが、そうでもないようです
検証も兼ねてオリジナル索引も作りましたが、やはり各機能の解説ページがばらけているようです
作った索引は別の記事にまとめています(記事の最後にもリンクがあります)
初級編で必要最低限の機能は説明されていますが、中上級編では適宜紹介する書籍構成の限界かもしれません

インターネット上でノウハウが沢山公開されているメジャーなソフトであれば些細な問題ですが、日本語ローカライズ未対応のまだまだこれからなソフトの教本では悪い意味で響いてきます

この本を買って読み込んでいく為には、自分なりに情報を整理するのがよいでしょう

まとめ

自身の所持している本や予算と相談して購入すべし

普段からボクセルのモデリングを行っている方にはおすすめの本であることは確かです
しかしボクセルを始めようという方にとってはただ読み進めるだけでは漠然とした理解に留まるでしょう
この本を活用するためには工夫が必要です
実作の制作で使用する機能が分散しているため自分なりにインデックスを作成すべきです
また実力をつけるために作例を真似るだけでなく習作などを別途制作するなど自分で考えながら読み込みます

現在出版されている教本の中には一気に実力が付くものや多くの気づきを得るものがあります
もしSNSやレビュー等で評価の高い本でほしい本が別にある場合などはそちらを優先した方がいいです
magicavoxelの操作を独学で学びつつ、予算に余裕のあるときに購入するぐらいが一番活用できると思います

教本の予算が多い人は購入だけしておくのもよいでしょう

索引記事をつくりました

ボクセルアート上達コレクションをより活用できるように索引記事を作りました
描画ツールやレンダリングなど機能ごとの索引になっています
ご使用いただければ幸いです

[おまけ]ボクセルアート上達コレクション索引

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